ラジオ計算盤を検証の結果誤差1%以下で直読できることがわかった。共振回路の計算及び受信機の同調回路を紹介する。
(The latest update: 2024年9月8日)
(The first upload: 2022年10月26日)
筆者は1960年代前半にラジオ教育研究所の通信講座第一部、第二部を修了したが特に第二部は複素数、ベクトル、記号法、インピーダンス等大学の回路論を先取りする内容と高等数学が非常に有益だった。ラジオ計算盤はその通信講座の入会特典だった。修了証書によれば理事長は笠井重治氏と記載されている。
特長
- 共振周波数、リアクタンス等を直読することができる。
- 位取り換算不要。
ラジオ計算盤(以下計算盤と略す)の外観を下の写真に示す。変色はみられるものの目盛り自体は十分読み取り可能な状態でガタもなく使用上の問題はない。外側の固定尺、内側の滑尺、カーソル、スケールによって構成される。外側固尺はA~E尺、内側滑尺はF~L尺となっている。
A~L尺の範囲は以下の通りとなっている。LC共振回路
共振回路は容量リアクタンス(コンデンサ)また誘導リアクタンス(インダクタンス)を可変すれば同調回路や可変周波数発振回路として機能するのでラジオ、テレビから携帯電話まで電波を用いるシステムの周波数を選択する目的で必ず用いられる。ここでは次の$L,C$共振回路を例として共振周波数$f$、容量リアクタンス$X_C$、誘導リアクタンス$X_L$を厳密計算とラジオ計算盤を比較することによって計算精度を検証する。尚、補足1にハマーランドSP-600を、補足2にコリンズR-390Aを、補足3に世界最初のソリッドステートシンセサンザ技術を用いた米ナショナルHO-500を、補足4にデリカDX-CS-7を、補足5に科学教材社の新教材II型ラジオを各々の同調回路部、発振回路関連部、フロントエンド部を中心として示す。 インダクタンス$L$,キャパ市タンス$C$の直列共振回路の共振周波数は次式で与えられる。計算盤による計算
① LC共振周波数
例えば$C=330pF$,$L=220μH$の共振回路の共振周波数はD尺とG尺を用いて次の2ステップで計算することができる。 外側固定尺のD尺のキャパシタンス$330pF$に内側滑尺の矢印を合わせる(赤いサークル)。 外側固定尺D尺の目盛りのインダクタンス$220μH$にカーソルを合わせ内側滑尺G尺の共振周波数を読み取る(赤いサークル)と$f=590kc(kHz)$となる。尚、赤いラインはD尺上の$330pF$のラインを示している。② 容量リアクタンス
キャパシタンス$330pF$の$f=590.7kHz$におけるリアクタンス$X_C$はC尺、G尺を用いて次のように求めることができる。 外側固定尺のC尺のキャパシタンス$330pF$に内側滑尺の矢印を合わせる。 内側滑尺G尺の周波数$590.7kc(kHz)$にカーソルを合わせ外側固定尺C尺の目盛りのリアクタンス$X_C$を読み取る(赤いサークル)と。$820Ω$が得られ厳密計算値$816Ω$と概ね一致している。尚、赤いラインはC尺上の$330pF$のラインを示す。③ 誘導リアクタンス
インダクタンス$220μH$の$f=590.7kHz$におけるリアクタンス$X_L$はB尺、G尺を用いて次のように求めることができる。 外側固定尺のB尺のインダクタンス$220μH$に内側滑尺の矢印を合わせる。 内側滑尺G尺の周波数$590.7kc(kHz)$にカーソルを合わせ外側固定尺B尺の目盛りのリアクタンス$X_L$を読み取る(赤いサークル)と約$820Ω$となり厳密計算と概ね一致している。尚、赤いラインはB尺$220μH$のラインを示す。 以上のようにリアクタンス$X_C$と$X_L$の絶対値は等しく$816Ω$となる。しかしながら位相が180°異なる。周波数と波長との関係
周波数$f(Hz)$と波長$λ(m)$との関係は次式で与えられる。計算盤ではG尺、H尺を用いる。隣接しているので容易に読み取ることができる。
例えば周波数$1Mc(MHz)$の波長は$300m$と得られる。電圧比
電圧比は次式によって表される。
I尺、J尺を用いる。
電力比
電力比は次式によって表される。
J尺、K尺を用いる。
補足1: ハマーランドSP-600
米国ハマーランド社SP-600は1951年に発売され抜群の感度、安定度を有する受信機として1972年まで長期間生産された(かつて筆者は所有していた)。"Shortwave Receivers Past & Present, 4th Edition, Communications Reseivers(1942-2013)"による諸元は以下の通り。
- サイズ: 482x266x438mm
- 重量: 30kg(ラックバージョン)
SP-600を一躍有名にした要素の1つである同調コイル(共振コイル)を実装したターレット(Turret)を示す。SP-600では同調回路にバリコンを用いて静電容量を変化させ(容量リアクタンスを変化させ)同調コイルのインダクタンスの値は各受信バンド毎に固定となっている。このターレットではコンデンサ(悪名高いブラックビューティ)が使用されていたため筆者がリキャップしている(青色のコンデンサ)。
ターレットの中のコイルの一例を示す。各コイルはステアタイト基板に取り付けられておりそれらをターレットにはめて(非常に硬い)バネで押さえる構造となっている。コイル横にトリマー用バリコンが見える。青色のコンデンサは筆者がリキャップしたもの。
下の写真は本体で左側に赤丸で示す同調用バリコン(受信ダイアルの回転に連動して容量変化)が配置され右側のターレット(青丸)は1バンド分のコイル群が除かれている。SP-600はターレット型コイル群と高周波回路の実装方法によって理論限界にせまる高感度を実現している。尚、共振周波数の変更は、バリコンでなくR-390Aのように同調コイルの透磁率を変化させる方式もある。
補足2: コリンズR-390A
高周波受信回路の同調回路等の共振回路のコイルのインダクタンスを変更する方法を採用しているR-390Aは1954~1985年まで54,000台以上が生産されたと言われている。"Shortwave Receivers Past & Present, 4th Edition, Communications Reseivers(1942-2013)"による諸元は以下の通り。
- サイズ: 483x267x438mm
- 重量: 29.5kg
かつて筆者はR-390Aを所有していた。感度はSP-600同様に理論限界に達していることに加えて周波数の読み取り精度はカウンター直読1kHz。下の写真は外観。
下の写真中央下部に位置するのがVFO(Variable Frequency Oscillator)でダストコアを出し入れしてインダクタンスを変化させて発振周波数を変えるPTO(Permeability Tuned Oscillator)を用いている。
下の写真はRFデッキ部分でKILOCYCLE CHANGE(kHz変更)、MEGACYCLE CHANGE(MHz変更)の各ノブは後部のSLUG RACKとギアトレインで連動してインダクタンスを可変している。
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補足3: 米ナショナルHRO-500
HRO-500は高周波受信回路にシンセサイザ技術を用いている(かつて筆者は所有)。下の写真は外観。HRO-500は、Popular Electronics誌1965年8月号、P45-47に"IS THE HRO-500 THE GREATEST RECEIVER EVER MADE?"というタイトルで紹介されている。いかに反響が大きかったかを物語るものである。次の写真はHRO-500とPopular Electronicsを並べたものである。"Shortwave Receivers Past & Present, 4th Edition, Communications Reseivers(1942-2013)"による諸元は以下の通り。
- サイズ: 419x195x324mm
- 重量: 14.5kg
下の写真はシャーシ上面をフロントパネル側から見たものである。手前左のシールドケースはシンセサイザスペクトラムジェネレータ、手前右のシールドケースは4.75MHzIFアンプ、フロントパネル側の黒いドラムは、各バンドのシンセサイザ同調周波数を示すためのものである。また、黒いドラムのシャーシの反対側にVFO(0-500kHz)がある。
共振回路はプリセレクタ、メインチューニング、シンセサイザチューンの3箇所に用いられている。シンセサイザチューン回路にはバリキャップ(バラクタ)が用いられ位相検波回路出力直流電圧を印加して発振周波数を変化させる。下の写真の赤丸。
注: バリキャップは半導体のPN接合に逆方向電圧を印加した時の空乏層静電容量が電圧によって変化することを利用する。
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補足4: デリカDX-CS-7
次にIFT(中間周波トランス)の同調回路として空芯コイルとC同調という珍しい構成のデリカDX-CS-7を示す。DX-CS-7は1952年に三田無線によって発表されたCS-6を改良したCS-7をベースとして、更にIF1段構成で最高の性能を狙った機種として発売された。昔、1960年代にDX-CS-7について三田無線に質問のレターを書いたら茨木悟氏から丁寧な返事を頂いたことがある(今でも保管している)。デリカ製のIFT(後述写真の丸型シールドケースに入った大型IFTでΦ12mmの空芯コイルとC同調による構成)に加えて、IF段に正帰還をかけること、6BZ6の使用によってIF1段のスーパーとは思えない高感度、選択度の良さを得ていることが特長となっている。下の写真は外観。
最大の特長になっているIFTのシールドケースをはずした状態を示す。Φ12mmの空芯コイル、トリマコンデンサ2ヶ所、正帰還用巻線が見える。
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補足5: 科学教材社新教材Ⅱ型
最もシンプルなゲルマニウムラジオの同調回路として珍しいスパイダコイルを用いた例として、科学教材社が1960年代に発売していた新教材Ⅱ型ラジオを示す。大型のスパイダコイル、感度切り替えスイッチを備えたチャーミングなフロントパネルを有するラジオである。外観写真を下に示す。
背面写真を下に示す。大型のスパイダコイルをもち、このコイル(84T)の途中からタップ(40T、52T、64T、74T)を出して感度タップ切換スイッチに接続する。このゲルマラジオの感度を以下の通り切換ることができる。
- 使用SSG: HP8657A(S+N)/N=10dB)
- 74T: 5mV、64T: 7mV、52T: 10mV、40T: 18mV
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補足6: リージェンシーTR-1
世界最初のトランジスタラジオは米国リージェンシー(Regency)社のTR-1でソニーTR-55よりも早く1954年11月に発売され米テキサスインスツルメンツ(Texas Instruments)のトランジスタを用いていた。主要諸元は以下の通り。
- スーパーへテロダイン方式(中間周波数は262kHz)
- サイズ: 76.2x127x32mm
- 重量: 340g(22.5V電池込み)
下の写真は外観。
下の写真は内部構造で、同調回路(共振回路)を構成するバリコンを赤丸で、コイルを青丸で示す。
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補足7: 通信型受信機の感度
上記補足1~7の内で通信型受信機の感度を筆者が2004年に測定したデータを示す。
測定機種: R-390A, SP-600, HRO-500, 51S-1, HQ-180C, SX-28, SX-99, MCR633, VR-500
- (S+N)/N=10dB
- AM30%変調
R-390A, SP-600, HRO-500は特に優れた結果を示しており平均で約0.5μVである。
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参考文献: Shortwave Receivers Past & Present, 4th Edition, Communications Reseivers(1942-2013)
Shortwave Receivers Past & Present, 4th Edition, Communications Receiversは2014年に発行された800ページの大冊である(2024年時点で$49.95)。1st Editionは1987年に発行された。
1942~2013年に発売された通信型受信機(360社、1700モデル)をカバーしている。
上記の補足1~4に掲載した通信型受信機も掲載されている。