音響測定ツールREW、TrueRTA、Analyzerを比較した結果、音圧周波数特性ではTrueRTAのQuick SweepとはREWとよく一致するが、TrueRTAと90秒スイープとの組み合わせでは、20Hzで約3dBの差を生じた。歪に関してはREWとTrueRTAの測定結果は概ね一致する。また、Analyzerは100Hz以上の帯域で実用上十分な精度を有していることがわかった。
(The latest update: 2024年8月25日)
(The first upload: 2019年4月27日)
理論
本稿の周波数特性及び歪率特性はいずれも音圧レベル20μPa(=パスカル)を基準とする音圧の基本波及び高調波成分の実効値となる。
また、FFTはリニア周波数軸上でスペクトラムが等間隔となる定周波数幅分析であるため対数周波数軸上で帯域幅が等間隔となる定比帯域幅表示に換算したツールでは周波数特性として見やすい表示となる。
ツ- ルの 説明
- REWは、Room EQ Wizardの略で部屋の音響やデバイスの測定解析用に開発されたソフトウエアで、信号源と解析ツール両方を備えており、正確なレスポンスとともに歪も測定表示することが可能となっている。また、他の2ツールにない特長として部屋の音響特性の解析に使用することができる。
- TrueRTAはTrue Audio社のFFTをベースとした1/24オクターブ定比帯域幅のリアルタイムアナライザで、内臓信号源を用いたQuick Sweepを用いると正確なレスポンスを測定することができる。またオシロスコープ機能も備えている。
- AnalyzerはiPad/iPhone上で動作するDSP Mobile社のリアルタイムアナライザで、iPhone/iPad上で動作することから可搬性に優れている。
測定方法
REW及びTrueRTA(Quick Sweep)の場合、PCから信号を発生させ信号をアンプに加えてスピーカを駆動する。True RTAやAnalyzerではCD再生による信号をアンプに加える。マイクECM8000によって得られた信号をE-MU0404で増幅しPC上のソフトウエア(REWまたはTrueRTA)に加える。REWとTrueRTAとの比較測定時期と、AnalyzerとTrueRTAとの比較測定時期は異なっておりセッティングも多少異なっている。イコライザは使用していない。
- REW: Length=256k(5.5s) or 1M(21.8s), No Smoothing
- TrueRTA: Quick Sweep mode or Continuous Sweep
- スピーカとマイクの距離: 2.5m
- マイク高さ: 1m
- スピーカ両ch駆動
- スピーカ駆動電圧: 2.83V
- イコライザなし
REWとTrueRTAの比較
音圧周波数特性の比較
ここでは、REW(Length=256k,1M)とTrueRTA(Quick Sweep, 外部正弦波スイープ90秒)による音圧周波数特性を測定比較した。
1) REW(Length=256k,1M,表示色Brown)とTrueRTA Quick Sweep(表示色Purple)の周波数特性はよく一致する。従って、REWとTrueRTA Quick Sweepのどちらを用いても実用上十分な精度が得られる。測定時間に関しては、TrueRTA Quick Sweepが数秒、REWがLength=1Mでは21秒(Length=256kでは5.5秒)である。REWの場合、Length=1Mの方がLength=256kより多少細かい起伏がよく測定される。
2) RTA 90sec Sweep(外部正弦波スイープ90秒,表示色Green)の周波数特性は、低域においてREWやTrueRTA Quick Sweepより多少低下するので注意が必要である。例えば本例のように90秒正弦波スイープでは20Hzで約3dB、50Hzで約1.5dB低下する。中域から高域にかけては問題ない。外部正弦波例えばテストCDを用いればCDプレーアを含む全体系を測定することができる利点があるが上記の低域特性を考慮しておく必要がある。
Note) 部屋の影響やLchとRchの干渉によって発生する音圧及び歪の起伏に注意しなければならない。例えば、70Hzでは音圧のディップが生じているがその第2高調波成分は部屋の特性による140Hzのピークによって強調される。従って70Hzの歪率はスピーカによって発生する歪率と同一ではない。
歪の比較
REW及びTruRTAによって測定した音圧の第2高調波歪(2nd HD)及び第3高調波歪(3rd HD)の測定結果を示す。REWでは直接高調波歪求めることができるが、TrueRTAの場合正弦波を再生したときのスペクトラムから2nd HD及び3rd HDのレベルを読み取りグラフ化してREWのグラフ上にオーバーレイしている。REW及びTrueRTAによる測定結果は概ね一致しているといえる。TrueRTAによる測定結果はREWに比べて起伏が大きく高域では歪レベルが低い。
AnalyzerとTrueRTAとの比較
ここではAnalyzerとTrueRTAとによる音圧周波数特性を比較した。下図のように、100Hz以上では両者は概ね一致している。一方、100Hz以下ではTrueRTAに比べてによる音圧周波数特性は数dB低下している。
REWによる部屋の音響特性の測定
REWを用いて部屋の音響特性例えば定在波の影響を測定することが可能である。定在波は部屋の固有周波数で発生し反射を繰り返すので定在波の影響が強いとその音圧の減衰時間が長くなる。3D表示によるWaterfallと2D表示で色で表示するSpectrogramが便利である。
次の図はWaterfallによる3D表現で横軸は周波数、縦軸は音圧を示し、手前に向かって時間が進行する。50Hz付近のピークに着目すると最大音圧98dBから減衰していく様子がよくわかる。
次の図はSpectrogramによる2D表現で、横軸は周波数を示し縦軸は上方向に向かって進行する時間の経過を示す。Spectrogramでは音圧は色の変化によって示され、音圧の高いほうから低いほうに向かって赤~オレンジ~黄色~緑~青と変化する。下の図の色の変化から50Hz付近の音圧が98dBから時間の経過に従って上方向に向かって緩やかに減衰していくことがわかる。尚、ピークレベルの包絡線や同一音圧レベルを等高線として表示することができる。