回路シミュレーションと実測値とはよい一致を得た。
(The latest update: July 4th, 2025)
(The first upload: June 23th, 2010)
1970年代、コンピュータ技術の進展とともに、回路シミュレーション手法が開発された。この時代に、筆者はコンピュータを用いた回路解析シミュレーション手法とソフトウエアも開発した。その中で、歪解析では過渡解析手法とFFTとを組み合わせた手法を用いており別項に示す有限要素法解析とともに私の博士論文の中にまとめてある。この回路シミュレーション技術はその後デジタル化の進展とともに普及し、LSI設計には不可欠なものとなっている。ここでは、汎用ソフトウェアSIMetrixを用いて2010年に行ったHomebrew Preamplifierの回路シミュレーションを基にして検証及び改良を加えた例を示す。本解析では、Homebrew Preamplifierのバッファアンプ部の歪率に関して、計算値が実測値とよく一致することを示す。
1) 回路
シミュレーションは実機に基づいた次の回路を用いて行った。ここで、回路図左端のV1が入力信号でC8とR14(1Meg)の接続点(出力端子)で出力電圧を観測をする。R14は実機測定器の入力インピーダンスに相当する。

真空管のEp-Ip特性
)真空管(12AX7)のEp-Ip特性(プレート電圧-プレート電流特性)は、単体のシミュレーションによって次のように計算されている(代表特性)。横軸はプレート電圧Plate Voltage(V)、縦軸はプレート電流Plate Current(mA)、G1は第1グリッドに印加するバイアス電圧(V)である。現実の特性はメーカによってもバラツキによっても変化する。

2) 歪率特性のシミュレーション
ここでは、筆者のHomebrew Preamplifierの歪率特性をとりあげる。
2.1) 歪率の実測値と計算値との比較
下のデータは歪率に関して、シミュレーションのデータと実測データとを比較したものである。シミュレーション歪率(Sim+Noise)と実測歪率(Meas)は比較的よい一致をみている。シミュレーションは過渡解析とFFTとを組み合わせて行う。残留雑音による歪率(Noise)は残留雑音一定であるから入力信号が小さいほど歪率は大きくなる。歪率(Sim+Noise)はシミュレーションによる歪率(Sim)と雑音成分の歪率(Noise)とを合算した歪率である。

2.2) 出力電圧の歪のスペクトラム
出力電圧1V及び9.6V時の歪のスペクトラムのシミュレーションを次に示す(基本波周波数は1kHz)。出力電圧1Vでは第4次高調波以上の成分は少ないが、出力電圧9.6Vでは10次高調波成分まで大きく、出力電圧が大きいほど高次高調波が増加することがわかる。また注意すべきことは出力電圧が大きくなり出力17Vでは後段のU3カソードフォロワで発生する第2高調波と打ち消しあって出力端子第2高調波成分が出力電圧15.5Vの第2高調波成分よりも低くなることなども発生する。


2.3) 歪スペクトラムの3D表示
出力電圧による高調波成分の変化を3D表示したものを次に示す。横軸Harmonic Orderは高調波次数で1が基本波で2〜10が高調波成分である。縦軸Level(Vpeak)は出力電圧のピークレベル(単位Volt)でmはミリ、μはマイクロ、pはピコを表す。奥行軸Output(Vrms)は出力電圧の実効値を表し手前が1Vで最も奥が17Vである。出力電圧Outputが増加するとともに高次高調波成分が増加する。特に出力電圧Outputが15.5V以上で高次高調波成分が急増していることがよくわかる。

3) 周波数特性のシミュレーション
3.1) シミュレーションと実測値との比較
歪率測定と同じ回路を用いて周波数特性のシミュレーションを行った。
シミュレーションと実測値との誤差は高域端、低域端いずれも0.2dBである。
- シミュレーション: 20kHz/-0.4dB,20Hz/-0.15dB
- 実測値: 20kHz/-0.45dB,20Hz/-0.35dB
低域特性はC8とR14がローカットフィルタを構成するためR14の値によって多少変化する。
3.2) 周波数特性(シミュレーション)
次のデータはシミュレーションの周波数特性である。縦軸の単位はdB、横軸の単位はHzである。1kHzを基準とした相対的な減衰量は20kHzで-0.4dB、20Hzで-0.2dBとなっている。

3.3) 周波数特性(実測値)
Lchの実測周波数特性を示す。縦軸は1kHzを基準とした相対的な減衰量で、20kHzで-0.45dB、20Hzで-0.35dBとなっている。横軸の単位はHzで、MAXは音量調節用ポテンションメータ最大位置、Midは音量調節用ポテンションメータ中央位置で僅かに変化する。Rchも同じであるため省略する。
上段に示すHomebrew Preamplifierの実測特性と比較すれば、よく一致しているといえる。
