サーモグラフィカメラによる真空管表面温度vs出力カーブは計算値と一致する。以下、MC275と6CA10プッシュプルの場合について解析する。
(The latest update: 2024年9月2日)
(The first upload: 2023年11月17日)
Tube Amplifier
Homebrew 6CA10 PP
Thermography
McIntosh MC275
発熱量は、主として真空管の消費電力による発熱と放熱によって決まる。
出力$P_{o}$での真空管の消費電力$P$は次の式(1)で表される(プッシュプル方式の場合)。以下具体例としてMC275の場合と自作6CA10プッシュプルアンプの場合について示す。両者の温度上昇の振る舞いが異なることがサーモグラフィー解析によって明示され式(1)による計算結果ともよく一致しており、動作点の違いによるものであることがわかる。
MC275の場合
無信号時~出力80WにわたるKT88表面温度を実測して表面温度vs出力との関係を示すとともに、式(1)による計算値と比較した。
無信号時
左端は表面温度スケールでスケールの最高温度が180℃、最低温度が20.1℃であることを示し色の変化によって温度を表している。測定された最高温度が170℃であることがわかる。
28W出力時
出力が大きくなるとKT88に流れる電流が増加するので表面温度が上昇する。下の写真はRch出力28W、Lch出力0Wの場合である。左端は表示温度スケールでスケールの最高温度が251℃、最低温度が20.1℃であることを示している。測定された最高温度が213℃であることがわかる。出力が0Wから28Wに増加することによってKT88の表面温度が約40℃上昇している。
80W出力時
下の写真はRch出力80W、Lch出力0Wの場合である。測定された最高温度が213℃であることがわかる。出力が0Wから80Wに増加することによってKT88の表面温度が約57℃上昇している。
詳細に測定し出力との関係を表示したものを下に示す。無信号時から徐々に上昇し約30W出力時表面温度が約220℃に達しその後も徐々に上昇し80Wでは約230℃まで上昇する。
式(1)による計算値との比較
式(1)は真空管(この場合KT88)の消費電力を与えるので発熱量と比較することができる。AC電源電圧101Vのときに各出力におけるKT88のプレート電圧(スクリーングリッド電圧もほぼ同じ)Epの測定値は下図の紫色の破線で示されプレート電圧は出力が0Wから80Wに増加すると443Vから417Vに低下することがわかる。一方、カソード電流(プレート電流+スクリーングリッド電流)Ikの測定値は下図のピンク色の破線で示され約45mAから約210mAに増加する。
式(1)によって消費電力(Power Dissipation)を計算すると下図の赤色実線のように0Wから25W付近にかけてに急増しその後は漸増し出力80Wで消費電力約58W(定格出力75Wでは約57W)となった(本測定はAC電源電圧101Vで実施したので多少高めかもしれない)。表面温度(上図のTemperature)、消費電力(下図のPower Dissipation)のカーブはよい一致をみており、各々の上昇カーブいずれをみてもMC275はB級に近い動作をしていると考えられる。
ここでSvetlanaのデータシートに基づいて許容プレート損失42Wと許容スクリーングリッド損失8Wとを加えた合計許容損失50Wにヒーター電力約10Wを加えた合計は60Wとなる。式(1)による計算結果(下図赤色実線)では出力10Wで消費電力40W、定格出力75Wでも57Wであるから許容範囲内に収まっている。
このデータから見てもMC275は放熱のよい場所に設置して使用することが重要となる。
6CA10プッシュプルアンプの場合
Homebrew6CA10プッシュプルアンプ(0.5%歪率出力25W)の場合について無信号時~出力25Wにわたる6CA10の表面温度を実測して表面温度vs出力との関係を示すとともに、式(1)による計算値と比較した。
尚、本6CA10 プッシュプルアンプは以降のサーモグラフィーにも映っているようにLch、Rch各々にメータを備えており6CA10の電流をモニタすることができる。
無信号時
測定された最高温度が185℃であることがわかる。
20W時
この場合の最高温度は183℃と測定されている。
25W時
この場合測定温度は176℃に低下している。
詳細に各出力におけるサーモグラフィーを測定して出力との関係を表示したものを下に示す。無信号時に最大温度185℃となり徐々に低下し25W時には約180℃となりMC275のような上昇はみられなかった。
式(1)による計算値との比較
式(1)は真空管(この場合6CA10)の消費電力を与えるので発熱量と比較することができる。6CA10のプレート電圧Epの測定値は下図の紫色の破線で示され出力が0Wから25Wに増加すると413Vから399Vに低下する。一方、プレート電流Ipの測定値は下図のピンク色の破線で示され46mAから78mAに増加する。
式(1)によって消費電力(Power Dissipation)を計算すると下図の赤色実線のように28Wから20Wに徐々に低下しており上図の表面温度と漸減カーブはよく一致している。表面温度(上図のTemperature)、消費電力(下図のPower Dissipation)各々の上昇カーブいずれをみても本6CA10プッシュプルアンプはAB級としての動作となっていることがわかる。
ここで6CA10のデータシートを見ると許容プレート損失30Wとヒーター電力約10Wを加えたあ合計は40Wとなるので非常に余裕のある動作であることがわかる。