ネットワークオーディオによって利便性と高性能を両立させたホームシアターの特性を測定した(周波数特性,歪率,部屋の特性)。
(The latest update: 2024年2月15日)
(The first upload: 2019年4月27日)
ここではiPad/iPhoneとAirPlayを活用したネットワークオーディオの特性を中心に述べている。また、参考として必要とされる周波数帯域及びピーク音圧レベルについて述べている。
iPadの操作性の観点から下の写真のようなタブレットスタンドにiPadを装着している。丁度ソファに座ったときに最適の高さとしている。iPad画面にアイコンとしてファイル(CD、レコードあるいは任意のトラック集合)のジャケットが表示されるので、そのアイコンをクリックすればそのファイルの内容(トラック群)が表示される。
AirPlay、Apple TV、iPad(またはiPhone)及びディジタルプロセッサによって構成したネットワークオーディオで高音質を実現するポイントは、各コンテンツをリニア(非圧縮のCD録音と同じ状態)で記録することと、Apple TV出力を高性能ディジタルプロセッサに接続することである。ここではApple TV(第3世代)の光デジタル出力を現用のアキュフェーズDP-510の光ディジタル入力に加える。Apple TVを用いると、WiFi環境下でiPhone、iPadのHD動画をテレビやプロジェクタに映すことが容易に実現できるが、ここで用いたApple TV(第3世代)は、第4世代以降と異なり光オーディオ出力端子を備えているので、HD動画以外のネットワークオーディオとしての用途にも適している(リニアオーディオ伝送可能)。ネットワークオーディオの構成を次に示す。
AirPlay、Apple TV、iPad(またはiPhone)及びDP-510のディジタルプロセッサによって構成したネットワークオーディオの利点は次の通りである。
- DP-510の高性能ディジタルプロセッサを活用することができる。
- アンプへの接続は、ネットワークオーディオ、CD再生両方に対してDP-510出力1系統ですむ。
- CD再生とAirPlay+Apple TVの選択はDP-510のINPUT SELでワンタッチ切り替え可能という利便性がある。
以下の条件で歪率特性を測定した(周波数特性は、20Hz~20kHzまで両者ともに全く問題なく平坦であるから上記CDのスペクトラムをカバーする。そこで、歪特性に注目する。
- Case A: CD(EIAJ/CP-2403準拠、44.1kHz、16b))をDP-510によって再生
- Case B: 上記CDをリッピング(WAVまたはAIFF)したデータをiPadで再生しAirPlayで送信しAppleTVで受信し光ケーブル経由DP-510ディジタル入力。
測定ツール: E-MU0404、TrueRTA(スペクトラム)、HP338A(歪率)
本測定のノイズレベルは、100Hzで-122dB、1kHzで-114dB、20kHzで-100dBと非常に低いので16ビット系の歪測定には十分である。125Hzと2kHzの高調波実測値を示す。Orange(125Hz)、Green:(2kHz)を見ると125Hzでは高調波が観測されるが、2kHzでは測定系ノイズに埋もれている。 TrueRTAはFFTベースの定比帯域幅(1/24オクターブ)フィルタを用いたリアルタムアナライザであるため、ホワイトノイズのノイズフロアの周波数特性は3dB/oct.で上昇する。
Case A(CD再生)とCase B(ネットワークオーディオ)に対するDP-510出力アナログ信号の歪率実測値を示す(Red: Case A、 Blue: Case B )。 両者はよく一致し、1kHzでの歪率は、約0.0015%となっている。16ビットCDの量子化誤差の理論値-98dBから求めた歪率の理論値0.0015%より低い領域があるのは、2次から11次までの高調波成分のみを計算していることが考えられる。また、1kHzを超えた帯域では歪成分が測定系のノイズレベル(1kHzで-114dB、10kHzで-104dB)同等以下となっている。 尚、DP-510の取扱説明書によれば、DP-510のディジタルプロセッサ部の保証全高調波歪率は24ビット入力時0.001%以下(添付特性グラフでは約0.0005%)となっている(HP339Aで測定)。
スピーカから再生した場合の全体の周波数特性及び歪率をREW (Room EQ Wizard)によって測定した結果を次に示す(スピーカ〜マイク距離2.5m,両チャンネル動作,2.83V入力)。
本稿で使用したREWはその名の通り部屋の特性を測定することができる(詳細は別稿の"音響測定ツールREW,TrueRTA,Analyzerの比較"参照)。
次の図はWaterfallによる3D表現で音圧の減衰時間が長いのは200Hz以下であることがわかる。
そこでWaterfallによる3D表示の周波数帯域を20-200Hzとして拡大したのが下の図で、50Hz付近及び100Hz付近の音圧のピーク及び減衰の様子がはっきりとわかる。50Hz付近では音圧の最大値98dBから徐々に減衰する様子がわかり、同様に100Hz付近のピークの漸減の様子もわかる。
次の図はSpectrogramによる表現で、50Hz付近の音圧は最大音圧98dBから時間の経過に従って上方向に向かって緩やかに減衰していくことがわかる。
参考1: 必要な再生周波数帯域
市販ソースの中から優秀録音と思われるものを含めてそのピークスペクトラムを実測して各々のソースに必要とされる周波数帯域を示す。オーケストラ、フルバンドジャズやフュージョンのスペクトラムは広帯域(35Hz-20kHz)にわたり概ね一様となっているので全体のバランスをチェックする目的に適している。また、大太鼓の基音は約40Hzであるから、大太鼓を十分再生するには40Hz以上の再生帯域が必要である。
オーケストラの帯域
- 橙: ミネソタオーケストラ/RR907CD/Track7(Tchaikovsky/Hopak from Mazeppa)/Eiji Oue
- 緑: ドイツグラモフォンベストレコーディング(Stereo Sound Reference Record Vol.9)/C30G00102/Track10&11(ストラヴィンスキー火の鳥)/ブーレーズ指揮、シカゴ交響楽団
- 紫: ワーグナー ニベルングの指輪/SICC20008/Track2(ワルキューレの騎行)/ジョージ・セル指揮, クリーブランドオーケストラ
- 黄: ストラビンスキー春の祭典/SICC 20040/Track2-3/ブーレーズ指揮,クリーブランドオーケストラ
- 青: ベートーベン前奏曲集/TDGD90013/Track2(Coriolan)/サー・コリン・デイヴィス指揮,バイエルン放送交響楽団
ジャズ&フージョンの帯域
次にジャズ、フージョンの帯域を示す。
- 緑: My Funny Valentine/TKCV-35348/Track6(It's all right with me)/Eddie Higgins Quartet
- 紫: 甦るビッグバンドサウンド/MLZJ2001/Track10(シング・シング・シング)/角田健一ビッグバンド
- 橙: マーカスミラー/VICJ-61266/Track9(シルバー・レイン)
- 青: Alfie/A9111/Track1(Alfie's Theme)/Sonny Rollins with orchestra conducted
- by Oliver Nelson
参考2: ピーク音圧レベル
ここではピーク音圧レベルを調べるために、クラシック(オーケストラ、室内楽、声楽)、ジャズ、ポップス各ジャンルにまたがる約50曲について測定を行った。この測定は、通常使用している音量において測定したのでアンプのボリュウム位置は一定ではない。大音量のほうが迫力があるが一方耳の保護にも留意しなければならない。
- ピーク音圧測定: Decibel Ultra ProのマニュアルによればLCpeak測定時間は50us以下となっているので今回のような幅の狭い測定には適している。
- 曲: クラシック(Classic)、ジャズ(Jazz)、ポップス(Pops)、テレビ録画のポップス(Pops-DTV)
次の図に示すように100dB~82dBに分布している。クラシックは83~100dBにわたって広く分布し、反対にテレビ録画のポップスのピーク音圧は80dB台にとどまっている。
補足: オーケストラのピーク音圧についてはハイファイスピーカ(中島平太郎著)の図1-10で19世紀に作曲された36曲について最大音圧レベル(指揮者後方2m)の分布を測定し最大111dB、平均101dBを得ている。筆者の実測(Decibel Ultra Pro)では自衛隊太鼓部の大太鼓、小太鼓から7~8mの地点でピーク音圧121dBを記録、別のブラスバンドではピーク音圧109.6dBを記録したが違和感なく聴くことができた。一方、市販音楽コンテンツ特にポップス系では、生演奏と異なり各々媒体や商品形態に合わせてコンプレッサ、リミッタを使用するとともに平均録音レベルを上げていると思われるので音量を上げすぎると過度に刺激的になる場合が多い。スピーカの再生可能ピーク音圧レベルにも課題がある。よって市販音楽コンテンツの再生には音量に注意を払う必要があり、上記の測定結果がそのことを物語っている。